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山形地方裁判所 昭和56年(ワ)72号 判決 1983年5月31日

原告

今井たち子

被告

早坂秀二

主文

1  被告は原告に対し二、五四七、一二〇円及びこれに対する昭和五六年三月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその他の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その他を被告の負担とする。

4  この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告は原告に対し四、七九二、九一〇円及びこれに対する昭和五六年三月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  原告の請求の原因

(一)  被告は昭和五三年三月一五日午後六時頃自動車を運転して山形市七日町四丁目一六番二号先の南北に通ずる道路の右地点において右道路の東側から西側へ後退するに際して、右道路西側歩道を清掃していた原告に右自動車を衝突させ、原告に対し胸椎捻挫、腰椎打撲、外傷性頸部症候群の傷害を与える事故(以下「本件事故」という。)を惹起した。

(二)  被告は本件事故当時前記自動車を自己のために運行の用に供していたものである。

(三)  本件事故によつて原告は次のとおり六、六〇六、二三二円の損害を受けた。

(1) 治療費一、一七〇、四八二円

(イ) 山口整形外科医院分一三、〇八〇円

(ロ) 横山接骨院分四七八、〇七四円

(ハ) 山形大学医学部付属病院分一二四、六三〇円

(ニ) 亀卦川外科医院分一八、七〇〇円

(ホ) 山形市立病院済生館分四五、四一八円

(ヘ) 佐藤整体治療院分三一一、五〇〇円

(ト) 伊藤マツサージ分一三五、〇〇〇円

(チ) その他の分四四、〇八〇円

(2) 売薬購入費一六、五一〇円

(3) 電気治療器具(ヘルストロン)購入費二一一、〇〇〇円

(4) 医師等に対する謝礼五一、九〇〇円

(5) 雇人賃金支払費二〇、〇〇〇円

原告は本件事故による傷害の治療のため自己の販売している競馬新聞の運搬、販売等の仕事をすることができないために他の人を雇入れたので、その雇人に支払つた賃金である。

(6) 通院のためのバス、タクシー代六四、六四〇円

(7) 逸失利益七七一、七〇〇円

原告は本件事故による傷害のため自己の営む菓子小売業を一時休業せざるをえなくなりそのために得べかりし利益を失つた。

(イ) 昭和五三年分四四一、〇〇〇円

休業日数一五〇日で一日の得べかりし利益は二、九四〇円として合計四四一、〇〇〇円

(ロ) 昭和五四年分一五六、〇〇〇円

休業日数五〇日で一日の得べかりし利益は三、一二〇円として合計一五六、〇〇〇円

(ハ) 昭和五五年分一七四、七〇〇円

休業日数五〇日で一日の得べかりし利益は三、四九四円として合計一七四、七〇〇円

(8) 慰謝料四、〇〇〇、〇〇〇円

原告は本件事故による傷害により長期間の治療を余儀なくされ、また現在においても頭重、後頭部痛、めまい感、はき気などがあり、いつ全治するか不明の状態にあるなど多大の精神的苦痛を受けている。

(9) 弁護士費用三〇〇、〇〇〇円

原告は野村喜芳弁護士に対し本訴訟の提起及びその追行を委任し、同弁護士に対し手数料として三〇〇、〇〇〇円の支払を約束した。

(四)  原告は本件事故に関し保険会社から一、八一三、三二二円の支払を受けた。

(五)  よつて、原告は被告に対し本件事故による損害賠償として前記(三)の損害六、六〇六、二三二円から前記(四)の一、八一三、三二二円を控除した残額四、七九二、九一〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日たる昭和五六年三月一〇日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求の原因に対する被告の答弁

(一)  請求の原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は認める。

(三)  同(三)の事実は否認する。

(四)  同(四)の事実は認める。

(五)  同(五)の主張は争う。

三  証拠関係は訴訟記録中の証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求の原因(一)及び(二)の各事実は当事者間に争いがない。右事実によれば、被告は前記自動車の運行供用者として本件事故によつて原告の受けた損害を賠償する義務があるものというべきである。

二  そこで原告が本件事故によつて受けた前記傷害についての原告の治療の経過について検討する。

1  成立について争いのない甲第三、第五、第七、第一八、第二〇号証、乙第一号証の一、第一〇号証、原本の存在及びその成立について争いのない甲第二、第四、第六、第八ないし第一七、第一九、第二一ないし第三三号証、原告本人尋問の結果によつて成立の認められる同第三四ないし第三七号証、証人涌澤恒二の証言によつて成立の認められる乙第一一、第一二号証並びに証人涌澤恒二の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五三年三月一五日本件事故によつて前記傷害を受けたため、同月一六日以後継続して佐藤整体治療院に通院してカイロプラクテイツクによる治療を受け、これと併行して、同月二〇日山口整形外科医院に一日だけ通院して治療を受けた後転医して、同年四月二八日から同年九月三〇日までの間に九九日間横山接骨院に通院して治療を受けたこと、原告は頸部、背部及び腰部に圧痛、疼痛がある状態で右横山接骨院においては牽引、矯正、電気マツサージ等による治療を受けたこと、原告はその後しばらくは前記佐藤整体治療院における治療を受けるのみであつたが、昭和五四年一月一九日から山形大学医学部付属病院(以下「山形大学病院」という。)において外傷性頸部症候群との傷病名によつて治療を受けるようになり、以後同病院に一か月に二、三回位の割合で通院して治療を受けたこと、その間原告は同年八月二日に亀卦川外科医院において通院治療を受けたほか、山形大学病院の主治医の指示により同年一一月八日山形市立病院済生館に通院して検査を受けたこと、原告は前記のとおり山形大学病院に通院し、その間医師に対して右頸部圧痛、右顔面、右上肢の知覚異常、頭痛、はき気等を訴えて対症的な治療を受けてきたが、脳波、頭部コンピユーター断層等の神経学的検査を受けた結果異常所見は認められなかつたため、同病院の医師によつて昭和五四年一一月一〇日をもつて症状固定したものと認定されたこと、右症状固定当時原告には後遺障害として頭痛、はき気、めまい感、眼前暗黒感、不眠等の症状が残つていたこと、原告は右のとおり山形大学病院において本件事故に関する傷害の症状が固定したとされた昭和五四年一一月一〇日以後も昭和五五年一〇月頃まで右の症状による苦痛をやわらげるため前記佐藤整体治療院へ通院してカイロプラクテイツクによる治療を受けたことが認められる。

2  前記1認定事実によれば、原告は本件事故によつて傷害を受けたが、その後医師による治療を受け、昭和五四年一一月一〇日をもつて右傷害の症状が固定したものと認められる。

前顕甲第一六号証、乙第一〇号証によれば、佐藤整体治療院佐藤啓医師作成の診断書に原告の傷害が昭和五五年九月四日をもつて症状固定した旨記載されていることが認められるところ、右記載は右診断書のその他の記載をも考察するとともに前記1に掲げた証拠とも対照すれば、原告の傷害の症状が昭和五四年一一月一〇日に固定した事実を認定することの妨げとはならないものというべきであり、他に右認定を妨げる証拠はない。

三  次に本件事故によつて原告の受けた損害について検討する。

1(一)  原告は前記二判示のとおり本件事故による傷害の治療のために山口整形外科医院、横山接骨院、亀卦川外科医院及び山形市立病院済生館に通院したが、前顕甲第二ないし第四、第八、第九、第一七、第一八、第二二、第二六号証、乙第一号証の一及び原告本人尋問の結果によれば、原告は右治療費として山口整形外科医院に対し一三、〇八〇円を、横山接骨院に対し四七八、〇七四円を、亀卦川外科医院に対し一八、七〇〇円を、山形市立病院済生館に対し四五、四一八円をそれぞれ支払つたことが認められる。そして右治療費の合計五五五、二七二円は本件事故による原告の損害というべきである。

(二)  前顕甲第五ないし第七、第一九ないし第二一、第二三ないし第二五号証、原告本人尋問の結果並びに前記二認定事実を総合すれば、原告は昭和五四年一月一九日から山形大学病院に通院して本件事故による傷害の治療を受け、症状の固定するまでの間に同病院に対し治療費として合計一二四、六三〇円を支払い、同額の損害を受けたことが認められる。

(三)  前顕甲第一〇ないし第一六、第二七ないし第三七号証、原告本人尋問の結果及び前記二認定事実を総合すれば、原告は本件事故による受傷のため昭和五三年三月一六日から昭和五五年一〇月一〇日まで佐藤整体治療院に通院してカイロプラクテイツクによる治療を受けたこと、原告は同院に対し昭和五三年三月一六日から前記症状固定の日である昭和五四年一一月一〇日までの間の治療費として二二四、五〇〇円を、同月一一日から昭和五五年一〇月一〇日までの間の治療費として八七、〇〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められる。そして右症状固定日以前の治療費二二四、五〇〇円は本件事故と相当因果関係のある原告の損害というべきであるが、右症状固定日の後の治療費八七、〇〇〇円は本件事故と相当因果関係のある原告の損害ということができない。

(四)  原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第七〇ないし第九四、第九六ないし第一二五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五五年一一月一日から昭和五七年二月一五日までの間に山形市内の伊藤マツサージにおいてマツサージ及びはりの施術を受け、同所に対しその料金として合計一三八、〇〇〇円を支払つたことが認められるけれども、これは本件事故による受傷に関する治療費としての原告の損害ということはできない。

(五)  原告が本件事故による傷害についてその他に治療費を支払つたことを認めるに足りる証拠はない。

(六)  したがつて、原告は本件事故による治療費として前記(一)の五五五、二七二円、(二)の一二四、六三〇円、(三)の二二四、五〇〇円の合計九〇四、四〇二円の損害を受けたものというべきである。

2  原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第三八、第三九号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は本件事故による受傷箇所に使用する湿布薬及び栄養剤を設楽薬店から購入し、同薬店に対し右購入代金として昭和五四年七月三日一〇、〇一〇円を、同年一二月一〇日六、五〇〇円を支払つたことが認められるが、右支払金額合計一六、五一〇円が本件事故と相当因果関係のある原告の損害であることを認めるに足りる証拠はない。

3  原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第四〇ないし第四七号証、成立について争いのない同第一二六号証の一ないし一五及び原告本人尋問の結果並びに前記二認定事実によれば、原告は昭和五四年一二月二〇日ヘルストロン山形サービスセンターからヘルストロン(高圧電界保健装置)を購入し、その後右ヘルストロンを頭痛、めまい感等の苦痛をやわらげる目的で使用していること、及び原告はヘルストロンの購入代金として二一一、〇〇〇円を支払つたことが認められるが、原告による右ヘルストロンの使用は医師の指示によるもの若しくは原告の本件事故による傷害の治療上必要性のあるものと認められないから、右ヘルストロンの購入費二一一、〇〇〇円は本件事故と相当因果関係があるものということができない。

4  原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第四八ないし第五三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故による傷害のために前記二のとおり昭和五四年一一月まで医師の治療を受けたが、その医師に対して謝礼の品物を贈り、その品物の購入代金として昭和五五年一月頃までに四四、四〇〇円を支出したことが認められる。右四四、四〇〇円は本件事故と相当因果関係のある原告の損害ということができる。

5  原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第五四ないし第五六号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記二の通院治療中に通院する当日自己の経営している菓子小売店「梅林堂」の店番を四日間大内泰男に依頼し、その賃金として同人に対し合計二〇、〇〇〇円を支払つたことが認められ、これは原告の本件事故による損害ということができる。

6  原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第五七ないし第六六号証、原本の存在及びその成立について争いのない同第六七号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は前記二のとおり治療のために通院中のタクシー代等の交通費として六四、六四〇円を支払つたことが認められ、右六四、六四〇円は本件事故による原告の損害ということができる。

7  前顕甲第二ないし第三七号証、原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第六八号証の一、二、第六九号証の一ないし四及び原告本人尋問の結果によれば、原告は梅林堂という名称で菓子小売業を営んでいたが、本件事故の日から前記症状固定の日の昭和五四年一一月一〇日までの間治療のため通院したことにより、一部右営業を休業することを余儀なくされ、そのため得べかりし利益を失つたこと、右菓子小売業における一日当りの収益は昭和五三年中は約二、九四〇円、昭和五四年中は約三、一二〇円であること、原告が前記通院のため休業した日数は昭和五三年中は約一五〇日、昭和五四年中は約五〇日であることが認められる。これによれば、原告は本件事故により休業して五九七、〇〇〇円の得べかりし利益を失い、同額の損害を受けたものというべきである。

8  本件事故の原因、態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容、程度その他諸般の事情を考え合わせると原告の本件事故による慰謝料は二、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

9  原告が本件事故に関し保険会社から一、八一三、三二二円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。そこで前記1、4ないし8の損害合計四、一三〇、四四二円から右一、八一三、三二二円を控除すれば残額は二、三一七、一二〇円となる。

10  原告が野村喜芳弁護士に対し本訴訟の提起及びその追行を委任したことは当裁判所に顕著であり、弁論の全趣旨によれば原告は同弁護士に対し手数料として三〇〇、〇〇〇円の支払を約束したことが推認される。そして本件事件の難易、請求額、認容額など諸般の事情を斟酌すれば原告が同弁護士に支払を約束した手数料のうち二三〇、〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある原告の損害と認めるのが相当である。

四  以上判示したところによれば、被告は前記自動車の運行供用者として原告に対し本件事故による損害賠償として前記三9及び10の損害額の合計二、五四七、一二〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日たること記録上明らかな昭和五六年三月一〇日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものというべきである。

五  よつて、原告の本訴請求は前記四判示の金員の支払を求める限度で正当として認容し、その他を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下澤悦夫)

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